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この世の女王

  • 2021年5月14日公開
  • 2023年8月4日更新

概要

「審判はまだ終わらない」

Twitterで書いた短編。『リアルファンタジー』の『救世の物語』の元になったものです。

全体敵に暗め。主人公の死後の話です。

本編

長い長い階段。月まで届く階段。彼女は歩く。連れもなく、暗闇に浮かぶその白い階段を、一段、また一段と上ってゆく。何日も、何年も、ただその月の輝きを目指して歩いてゆく。

彼女は猫だった。彼女は闇だった。彼女は獅子だった。彼女は光だった。彼女は人だった。彼女は灰だった。彼女は──孤独だった。かつては賑やかだった隣も、今では暗闇が流れゆくばかり。走馬灯を抜けて、彼女は階段を上り終えた。

階段の果てにあるのは一席の玉座。手の届きそうなほど近付いた月、そう見えた白い円。そこから伸びる無数の糸。どこまでも遠く、来た道へ、その先へ、四方八方へと伸びているその糸が、誰かの元へ、懐かしい面影に繋がっていると信じて、願って。彼女は、糸を手繰り寄せた。

──白い宮殿。玉座に座すのはこの世の女王。黄金の髪、白磁の肌、黒絹の衣、緋赤の絨毯。室に娘が入り、女王に頭を垂れる。それは雪細工のように白く儚い娘だった。女王は室の扉を指し、裁けと命じた。その腕に鎖が鳴る。すべての人の子が罪を雪いだとき、彼女は玉座から解き放たれるだろう。

鎖に巻かれたこの世の女王。誰よりも真っ直ぐ、誰よりも高く、誰よりも先へと上り詰めたこの世の女神。そして誰よりも高慢なこの世の主。その罪が雪がれる日は来るのだろうか。審判はまだ終わらない。