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冥府の楽園

  • 2022年1月8日公開
  • 2023年8月4日更新

目次

概要

「東へ、東へ。再び旅を続けるために」

Twitterで「楽園編」と呼んでいた、『リアルファンタジー』の本編に収まらなかったシーンを書き起こしたものです。死、傷、子捨てなどの要素を含んでいます。

白銀の少年と黄金の少女

星空の夜、空の片隅から銀色の卵が降ってきた。銀色の卵は丸く口を開けると、白銀の髪の少年を吐き出した。辺りは一面の砂漠。

少年は歩き回り、オアシスを見つけた。少年がオアシスに近付くと、水底から声が聞こえた。せせらぎのような少女の声だ。少女の声に導かれ、少年は砂漠を越える。

谷を下り、洞窟へ潜り、地底湖のほとりに黄金の髪の少女を見つけた。二人が出会うと、谷底に花が咲き乱れ、砂漠は森に覆われた。二人は地底を去り、森に暮らした。

世界樹の森。その根に清められた泉。ある夜、二人は泉に宝玉を沈めた。手の平ほどの大きさの、青白く輝く宝玉だ。二人は宝玉を沈めると、森を去り、地底に暮らした。

千尋の谷底。冥府の楽園。奈落の洞窟の奥深く。地上にあった世界樹は冥府に落ちてそこに悠然と立っていた。

白銀の女

星空の夜、空の片隅から銀色の卵が降ってきた。銀色の卵は緩やかに光を弱めると、白銀の髪の女の姿になった。辺りは一面の花園。

女は歩き回り、少年と少女の住み家を見つけた。女が住み家に近付くと、扉の向こうから声が聞こえた。せせらぎのような少女の声だ。少女の声に促され、女は扉を開く。

温かな空気、美味しそうな香り、食卓のまわりに少年と少女を見つけた。三人が出会うと、谷底に風が吹き乱れ、一粒の石から赤い星が生まれた。女は住み家を去り、赤い星に乗って旅をした。

世界樹の原。その枝に実った果実。ある夜、女はその果実を手にした。手の平ほどの大きさの、黄金に輝く果実だ。女は果実を食すと、世界樹の枝に座し、そこに暮らした。

千尋の谷底。冥府の楽園。奈落の洞窟の奥深く。地底の世界樹は女と共にそこに悠然とそびえていた。

白銀の少女

星空の夜、空の片隅から銀色の卵が降ってきた。銀色の卵は緩やかに光を弱めると、白銀の髪の少女の姿になった。辺りは一面の花園。

少女は歩き回り、少年と少女の住み家を見つけた。少女が住み家に近付くと、扉の向こうから声が聞こえた。せせらぎのような少女の声だ。少女の声に促され、少女は扉を開く。

温かな空気、美味しそうな香り、食卓のまわりに少年と少女を見つけた。三人が出会うと、谷底に風が吹き乱れ、一粒の石から一匹の土竜が生まれた。少女は住み家を去り、土竜と共に旅をした。

世界樹から遠く離れ、東へ、東へ。沈んでは昇る月を頼りに、東を目指す。世界の殻座を探して。その先に地上があると信じて。住み家から遠く離れ、東へ、東へ。昇っては沈む月を頼りに、東を目指す。世界の果てを探して。その先に天上があると信じて。

辿り着いたのは海だった。少女は土竜と別れ、海を漂った。海月のように、海星のように、藻屑のように。少女の藻屑は青白い光となり、やがて海と空の交わる彼方へ消えていった。遠く、遠く。

黒鉄の女

星空の夜、世界の殻座から一人の女が現れた。黒鉄の髪の女だ。女は一本の鏡をかざし、道を照らして歩いていた。鏡からは光が溢れ、彼女の迷いない足を導いた。

黒鉄の女は世界樹に辿り着くと、その樹に登り、白銀の女と共に枝に座した。白銀の女に黄金の果実を差し出す。白銀の女は果実を受け取らなかった。

北に見える山々。南に見える煙突。眼下に見える墓標。その墓中に骸はないのだという。二人は骸の主を待ち続けた。

青銅の少女

星空の夜、世界の殻座から一人の少女が現れた。青銅の髪の少女だ。少女は一輪の花に魔法をかけ、巨大な赤い花に変えた。赤い花の中央には穴があり、地下の蜜園へ繋がっていた。

蟻の巣状に張り巡らされた蜜園。腹に黄金の蜜を蓄え、天井にぶら下がる巨大な蜜壷蟻。ぬば玉のような腹の働き蟻たちは花園と蜜園を行き来し、蜜を集める。

造花の蜜。からくりの蟻。少女は赤い花に笑顔で座している。からくりの営みを見守りながら。

赤銅の少年

星空の夜、世界の殻座から一人の少年が現れた。赤銅の髪の少年だ。少年は一本の蔓に足をかけ、小さな赤い傷を作った。赤い傷から赤い血が滴り、一匹の黒い竜となった。

黒い竜は少年を追い、少年は駆けて逃げた。ささやかな住み家で白銀の少年と黄金の少女は幸せに暮らしている。世界樹の枝の上で女は冥府を眺めている。赤い花に守られた蜜園で少女は蟻に囲まれ歌っている。

少年の生み出したものは少年を拒んだ。少年は殻座を辿って帰った。少年は楽園を失った。

失楽園

星空の夜、空の片隅から琥珀色の卵が降ってきた。琥珀色の卵は緩やかに光を弱めると、白銀の髪の少年と黄金の髪の少女の姿になった。

少年の頭には黄金の輪が現れ、少女の背には白銀の翼が現れた。二人が手をとり目を閉ざすと、二人の間に琥珀色の卵が生まれ、そして眩く輝いた。輝きは楽園を照らし、卵は地底の太陽となった。

始まりの少年と少女の覆せぬ過ち。それは宝玉を泉へ沈めたこと。時を超え、宝玉の子は楽園へ帰り、朝日をもたらした。

朝日が告げる。楽園の終わりを。海の彼方で陸は温められ、命は栄えるだろう。青白い光となった白銀の少女の魂を祖として。東へ、東へ。再び旅を続けるために。遠く、遠く。集い、やがて海と空の交わる彼方へ旅立つために。