リアルファンタジー
- 2021年1月6日公開
- 2022年11月12日更新
目次
概要
「一緒に帰ろう!」
異世界へ召喚された四人組の少女たち。一人は異世界出身の王女で、異世界への残留を迫られる。果たして王女の決断は。
α版『REAL FANTASY』
略称はRF。2007年構想開始。2009年連載開始。2010年連載打ち切り。2019年公開終了。
知人に執筆を依頼したコラボ小説で、原案と挿絵を担当しました。当方の都合により早い段階で打ち切りとなっています。
連載開始から10年間公開されていましたが、掲載先のブログサービスが終了し、ログもウェブアーカイブも残っておらず、再読不能となりました。読みたくても読めない過去の作品です。
β版『リアルファンタジー』
本頁のコンテンツ。α版『REAL FANTASY』のリメイク板。2021年1月6日連載開始。同年6月4日連載終了。
α版の連載終了から温めていた新構想を、あらすじ形式で形にしたものです。色々と詰め込みすぎてまとまらなかったので再リメイクを検討中。
死ネタを含みます。大丈夫な方は次項よりお読みいただけます。
第1章 四人の少女たち
「果たして彼女の決断は」
序
夏休み。花火を見に丘を訪れた四人の少女たちは、閃光と共に異世界の城へ召喚された。猫、狼、鷲、魚の亜人となり唖然とする四人に、召喚者が語りかける。
四人が召喚された理由は機密であること。現世と異世界は輪廻で繋がっており、四人の姿は前世のものであること。現世へ帰るには四つの宝玉が必要であること。宝玉はこの島の四方を守護する四神に託されていること。
召喚者の話を聞いた四人は、宝玉を求める旅に出た。
破
南の草原地帯。都市が発達しており、四人はそこで旅に必要な道具や装備を整えた。神殿には四神の一人である朱雀がおり、彼女に力を示すことで一つ目の宝玉を授かる。
西の森林地帯。鴉と蛇の一族が強者の座を巡って争っている。これを鎮めることで四神の一人である白虎に認められ、二つ目の宝玉を授かる。
北の湖畔地帯。一行の一人である魚娘が、月の塔で出会った月神子に恋をしてしまう。人魚たちが誘惑して永住を勧めるが、現世へ帰ることを決意し、四神の一人である玄武から三つ目の宝玉を授かる。
東の砂漠地帯。四神の一人である青龍から世界樹の苗を託され、これを植えることで四つ目の宝玉を授かる。青龍曰く、世界樹の苗は砂漠化した東方に失われた森をもたらすために必要らしい。
城へ戻る道中、盗賊の狐娘に宝玉を盗まれ後を追う。彼女は病の妹を救うため薬を買う金を必要としていた。薬を買って届け、宝玉と交換する。
急
宝玉を手に入れて城へ帰還した四人は、召喚者からある事実を告げられる。四人の内の一人である猫娘が、異世界で生まれ行方不明となっていた王女だというのだ。国を安定させるため異世界に残り、王位を継ぐよう迫られる猫娘。果たして彼女の決断は。
第2章 獅子心の女王
「もしも女王にならなければ。後悔の物語」
序
異世界に召喚された四人組。その内の一人は異世界の王女だった。国を安定させるため異世界に残り、王位を継ぐことを決意した王女。しかし彼女が女王となった数年後、反乱軍との戦いが始まった。
反乱軍を率いる戦乙女。彼女は遥か千年の昔に地底へ封じられた一族の娘だった。反乱軍はその地底の民と、世襲に反対する地上の民の合同軍である。
王国は現世へ帰還した三人を再び召喚し、それぞれ陸海空の軍隊を任せた。それは平和な王国には存在しなかった、女王の知恵による新しい組織である。三人は戦が終われば速やかに現世へ帰還することを条件に、女王の指示に従い軍隊を指揮した。
破
反乱軍は王国軍と交戦する一方で、脆弱な月の塔を制圧した。そこは王族に権威を与えている皇族の皇居だった。反乱軍は皇子を人質に取り、王国軍の動きを制した。
王国軍は陸海空の三方から反乱軍を包囲した。戦況が硬直したとき、海軍は皇子たちに物資を届けるため反乱軍の傘下に加わった。籠城する反乱軍に物資を届けて続けた海軍は、反乱軍を裏切って皇子を奪還した。
数で勝る王国軍は、烏合の反乱軍を征した。戦乙女は討たれ、遺体は岬から海へと流された。海軍を率いた心優しい娘は、短い時間を共に過ごした彼女の水葬を見送り、仲間と共に現世へ帰還した。
急
戦乙女の背後には女王の影武者がいた。影武者は王位を奪うためクーデターを起こしたのだ。
流れる黄金の滝の髪。銀色に煌めく三日月の刃。崩れ落ちる獅子心の女王。勝利の女神は影武者に微笑んだ。
首級を挙げた影武者は新たな支配者となった。もしも女王にならなければ。後悔の物語は女王の死によって幕を閉じる。
第3章 戦乙女の追想
「冥府に落ちた戦乙女。彼女の過去」
序
地底街。蟻の巣状に張り巡らされたその街に、かつて彼女は暮らしていた。オブシディアンの髪、ペリドットの瞳。美しい彼女は戦士の家系に生まれながら体が弱く、男共のように剣を振るうことも、女共のように水桶を運ぶことも許されなかった。
彼女の母親もまた体が弱かった。生まれてきた数人の兄姉はいずれも幼くして命を落とした。生き残ったのは彼女一人。自分は兄姉のように弱いのではない。兄姉より強いから生き残ったのだ。彼女は気丈に母親の看病に努めた。
母親は一族を地上へ導くという戦乙女の伝承を好んで彼女に聞かせた。戦乙女の登場が先か、蔓延る病による滅亡が先か。彼女は伝承など信じてはいなかった。
破
皆が寝静まる夜。硝子の天井に月を望む広間に、彼女は足を踏み入れた。祭壇に隠していた剣を取り、日頃男共がしているように何度も振るう。弱いから剣を振るえぬのではない。剣を振るわぬから弱いと言われるのだ。彼女は信念の元、密かに鍛錬を続けていた。
いつものように鍛錬をしていた夜、足音と共に黄金の髪の女が現れた。女は彼女こそが戦乙女の転生だと説き、地底湖に眠る竜を討ち宝玉を手に入れるよう諭した。彼女は伝承など信じてはいなかった。しかし自らの力を試すためならば、危険を冒すことを躊躇いはしなかった。
彼女は竜と相討ちた。竜の胸を抉って宝玉を奪い、地底湖から続く川を辿り、瀕死の重傷を負いながら這い進んでいたその道半ばで力尽きたのだ。彼女の亡骸は一族の者達によって発見された。
急
月を望む広間。弔いの炎が焚かれ、彼女の亡骸が投じられようとしたとき、あの黄金の髪の女が現れた。女は亡骸の口に一粒の真珠を落とし込むと、何言か呪文を唱え、深く念じた。すると亡骸は青白い光に包まれ、彼女は息を吹き返した。
パーライトの髪、トパーズの瞳。変色した彼女の姿は見る者を魅了した。彼女は宝玉を掲げ、地上への進出を宣言した。遥か千年の昔に一族を地底へ封じ、今も貧しい暮らしを強いている地上の王家に反旗を翻したのだ。
反乱軍を率いた彼女の物語は敗戦に終わる。冥府に落ちた戦乙女。彼女の過去を知る女は今どこにあるのだろう。
第4章 真珠狩りの魔女
「ここに千年続く王家の歴史が幕を閉じた」
序
日の一族と火の一族はかつて王権を争う間柄だった。影武者の母親は火の一族の出身で、王女の乳母だった。乳母は王権を狙い、王女を次元の扉の向こうへ捨て去った。
王国では王族の世襲に反対する声が上がっており、王女の不在は反対派を刺激する恐れがあった。乳母は我が子を王女の影武者として差し出し、やがて女王となる我が子を影から操ろうとした。王女が発見されるまでその不在を隠そうとした王国は、藁に縋るかのように影武者を受け入れた。
影武者は幼くして乳母から自らの出自を聞かされ、実の母親のため王女として相応しいように振る舞った。しかし本物の王女の発見と召喚が成され、影武者はその地位を失った。乳母は王女の王権を諦めず、新たな計画を図った。
破
王女は女王となり、新たな王女となる娘を生んだ。同じ年、影武者もまた娘を生み、新たな王女の乳母となった。病を患っていた影武者の母親は、娘に野望を託して亡くなった。
影武者は母の言葉に従い、禁術に手を染めた。乙女たちの魂を真珠に変え、その霊力の込められた真珠を媒介に母親の魂を呼び戻す術だ。騒動の中で乙女たちを生贄とするため、影武者は戦を起こした。
王国には、遥か千年の昔に地底に封じられた戦乙女の一族がいた。一族は地上への進出を狙っていた。影武者はこれを利用したのだ。
急
戦は戦乙女の一族の敗戦に終わった。戦乙女の亡骸は海に流され、その真珠を手に入れることはできなかった。しかし禁術には充分な真珠を影武者は手に入れていた。影武者は我が子を依り代として母親の魂を呼び戻した。その魂はゆるやかに目覚め、育まれ、我を取り戻すだろう。
影武者の刃は女王を襲い、その胸を突き刺した。女王はもういない。支配者を失った民衆はうろたえ、再起した反乱軍の手に落ちた。そして王女と王配は姿を晦まし、行方知れずとなっていた。影武者は新たな支配者となり、ここに千年続く王家の歴史が幕を閉じた。
第5章 偽りの真珠姫
「愛しい彼女はもういない。望まなかった逆転劇」
序
千年続いた王家は、自ら招き入れた不純物によってその歴史に幕を閉じた。新たな女王は、前女王の首級を挙げた、かつての影武者だ。
彼女は玉座に君臨すると、新王家派の民を市民とし、旧王家派の民を奴隷として区別した。そして大陸に使者を送り知識や技術を持ち帰らせると、市民だけにその恩恵を与えた。奴隷とされた民が公的に虐げられることはなかったが、格差は広がる一方だった。やがて市民権欲しさに旧王家派の民の殆どが新王家派へと移り変わり、新たな法と軍とに守られた女王に逆らえる者はいなくなっていた。
女王による施政は十余年続く。その間、女王に代わる人材が表舞台に現れることはなかった。王女の成人を機として女王は隠居を決め、新たな施政者を選ぶための選挙を行った。反乱を起こしたとはいえ、その実、世襲に反対していたのは一部の血気盛んな民衆のみである。選挙は公平に行われたものの、世襲を当然と考えていた多くの市民が王女に投票する結果となった。
破
その日、新たな女王が誕生した。流れる黄金の滝の髪。銀色に煌めく真珠の飾り。美しい乙女は、若干十余歳にして一国の主となった。傍らに同じ年頃の宮女を置き、彼女は玉座に君臨した。宮女は彼女を慕っていた。
彼女は自分に逆らわない優れた商人や軍人といった有益な民を選別し、貴族という身分を授けると、毎晩のように舞踏会を催して彼らをもてなした。彼女は根からの浪費家だった。豪遊は彼らの金銭感覚を麻痺させ、重税となって民衆を苦しめた。宮女は密かに町に降りると、貧民に手を差し伸べていた。
貴族が堕落し民衆が疲弊する中、世界の情勢は急変する。世界の半分にまでその版図を広げた帝国が現世をも支配しようと、各地の次元の扉を狙って侵略を進めたのだ。王国はその最初の矛先だった。焼け落ちる宮殿。血に染まるドレス。宮女が抱える彼女の亡骸は静かに冷たくなっていく。
急
女王の傍らにあった宮女。彼女こそが正統なる王家の娘であることを帝国は民衆に明かした。顔が知られていたために捕らえられた元王配である、彼女の父親が帝国将軍の前で告げたのだ。影武者が母親の首をかき切ったその頃、彼女は父親と共に城から落ち延び、生き長らえていた。彼女は帝国の意思により、支配下ではあるものの施政者としての人生を約束された。
その日、新たな女王が誕生した。先代の仇、その娘の死と引き換えに、宮女は王位を取り戻したのだ。心優しい彼女の手に助けられていた貧民たちは、かつての王権の復活を喜んで受け入れた。宮女の愛しい彼女はもういない。望まなかった逆転劇に真珠の涙が零れ落ちた。
女王は奴隷制を廃し、貴族から税金を得て貧民を支援した。やがて王国は活気を取り戻し、帝国の支配下にあっても自由を謳歌していた。一方、帝国は着実にその版図を広げ、軍備を強化していった。かつて獅子心の女王が暮らしていた、ビルの群れに囲まれた現世へと侵攻するために。
第6章 沼底の黄燐
「緋色の宝玉は静かに輝いていた」
序
その昔、東の森には数多の部族が暮らしていた。その中でも火の一族は冠婚葬祭を司り、周囲の部族の娘らはそこで花嫁修業をするのが習わしだった。
歩けぬ娘。這い進む彼女を火の一族は蛇と呼び蔑んだ。砂利と小枝に擦り切れた体を癒すため水場を訪れる娘に、火の一族はその豊かな水を与えない。森を這い進み、巨木の根本に沼を見つけた。意を決して近づく娘。反転する景色、泥色。
破
娘が目覚めたとき、手には緋色の宝玉を握っていた。そして傍らには見知らぬ黄金の髪の女がいた。女は娘を集落に送り帰すと、そのままそこで暮らし始めた。宝玉は火神の社に祀られた。
その日から続く日照り。火の一族は黄金の髪の女に白羽の矢を立てた。日照りを火神の怒りと解釈した彼らは、彼女を生贄にしようとしたのだ。しかし女は歩けぬ娘を巫女とすれば日照りは止むと預言した。果たしてその通りとなった。
急
歩けぬ娘は聖火の煤に清められた黒巫女となり、黄金の髪の女は火神の化身として崇められた。二人は仲睦まじく暮らし、火の一族は火と森の恵みによってかつてなく栄えた。黒巫女のもたらした緋色の宝玉は静かに輝いていた。
第7章 東の離宮
「東の離宮。それは黄金郷の主、火神子の忘れ形見だった」
序
火神子は火の一族の姫であり、火神に仕える巫女だった。東の森に暮らす火の一族は、収穫祭の度に大量の食物を燃やした。火神子が巫女となってから、収穫祭は年々盛大なものとなっていった。
日照りの年、収穫祭に反発した周囲の部族との間に戦が起きた。火の一族は周囲の部族から食物を徴収していたのだ。戦は火の一族の優勢に進んだが、族長である火神子の兄とその妻が討ち取られ、戦は火の一族の敗戦に終わった。
火神子は復讐のため、一族に伝わる火を操る力を授ける宝玉を持って森を駆けた。木々に隠れ、暗躍する火神子。やがて火神子の力を恐れた人々は、彼女を捕らえようと蜂起する。火の一族すら彼女を追った。火神子に味方はいない。森は焼け落ちた。火神子が焼き払ったのだ。
破
隠れる場所も帰る場所も自ら焼き払った火神子。彼女は遂に捕らえられ、王族である日の一族に引き渡された。日の一族の若君との婚姻により戦火の罪は許されたが、火神子は決して若君に身も心も許さなかった。火神子には巫女としての自尊があったのだ。
火神子は森のあった東の荒野に離宮を建て、不仲を理由にそこへ暮らした。離宮の近くには鉱脈があった。火神子は鉱夫や技師を雇い、離宮の周囲にささやかな町を発展させた。事態を危ぶむ声もあったが、鉱脈からもたらされる富を断つ者はいなかった。
火神子は強かな女だ。どんな無謀な企みも叶える幸運に恵まれている。鉱脈を足がかりに富を築いた火神子は、王家に並ぶ強大な権力を手に入れようと画策した。
急
火神子の離宮には美しい娘たちが集められ、宮女として迎えられた。宮女たちに下心が無いわけではなかった。火神子の元に付いていれば、集落では決して手に出来ないであろう見事な宝飾品が与えられたのだ。男たちは宮女たちとの恋に溺れ、その恋の檀上に憧れた娘たちが新たな宮女として迎えられた。
火神子の黄金の髪は富の象徴となり、離宮は富の女神に護られた楽園となる。火神子は一代の間に祖国を上回る黄金郷を築き上げていた。火神子の兄とその妻を討ち取った一族は彼女の権限によって捕らえられ、戦犯として処刑された。火神子は復讐を果たしたのだ。
城下町は火神子が亡くなるまで栄えた。焼け落ち、開拓され、海から来る風に晒されたかつての森は不毛の砂漠と化した。火神子に子はいない。離宮を継ぐ者はおらず、やがて鉱脈の資源は付き、城下町は廃れていった。東の離宮。それは黄金郷の主、火神子の忘れ形見だった。
第8章 最初の女王
「千年王国はその独立性を失うまで繁栄した」
序
その島では四年ごとに武闘会が催され、優勝者が王となり、優勝者を輩出した一族が王族として政を行った。歴代最多の王を輩出していた日の一族は、聖火を守り司祭として信仰の中心にあった火の一族と競争関係にあった。日の一族と火の一族は濃い血縁関係にもあり、両者の主導権争いは年々加熱していった。
日の一族は政を行い易い島の中央部に栄え、火の一族は豊かな森や鉱脈のある島の東部に栄えた。しかし悪名と誉れ高き火神子が巫女となってから森は焼け落ち、鉱脈の資源は尽き、火の一族の黄金期は終わりを迎えた。火神子亡き後、火の一族には彼女の兄の血筋である白狐姫が残された。
日の一族には白狐姫と同じ年頃の黒猫姫がおり、二人は一族の期待を背負って共に美と知と武、そして魔を競う関係にあった。二つの氏族が取り分けて武闘会で優秀だったのは、強力な魔法の扱いに長けていたからに他ならない。その年の武闘会もまたどちらかの氏族が優勝を競うことは確実だった。
破
武闘会は黒猫姫が制し、彼女が島で最初の女王となった。それまでに男王はいたが、女王はいなかったのだ。大陸への使者の派遣、法や道の整備、紙幣や手形の導入、聖典の編纂、暦法の改正。彼女は施政者として優れた才覚を発揮し、数々の改革を行って古い時代に終わりをもたらした。
黒猫姫は武術の面でも無類の優秀さを誇っていたが、四度目の武闘会で白狐姫に敗れた。白狐姫は法の穴を突き、一族に伝わる宝玉の火の力を用いて優勝をもぎ取ったのだ。しかし民衆の反発によって試合は無効とされ、白狐姫の優勝は認められなかった。
逆上した白狐姫は黒猫姫の暗殺を謀り、その玉座を奪い取ろうとした。黒猫姫は一命を取り止めたが、優秀な女王に熱狂していた民衆は怒り狂い、白狐姫を捕らえて死罪とした。彼女を世に生み出した火の一族郎党は罪人を示す烙印を刻まれ、先祖代々受け継いできた土地と宝玉を奪われ追放された。
急
土地も地位も失い、何もない南部の草原地帯に流れ着いた火の一族は暗黒の時代を迎えた。彼らに残されていたのは土木や冶金などの地道な技術だった。彼らの優れた技術を求める者は決して少なくなかったが、罪人の一族として他の氏族からは排他的に扱われることとなった。
東部に留まることを望んだ火の一族の一部は、鉱夫として地底に暮らし、日の一族に仕えることとなった。金銀を量産した豊かな鉱脈が尽きたとはいっても、まだ細かな資源はあったのだ。やがて光を失った彼らは牙も爪も失い非力な闇の一族となり、火の宝玉は地底湖の竜に託され封じられた。
民衆は火の一族を弾圧したが、黒猫姫は亡き白狐姫と残された一族を許していた。法により火の一族の次世代には罪人の烙印は刻まれず、他の氏族と同等に扱われるように取り図られた。火の一族はこの恩に報い、白狐姫の罪を償うため、その技術を惜しみなく王室のために使った。
黒猫姫の施策によって王族は世襲制となり、歴代王子には施政者としての教育が施された。火の一族は工業の担い手となって国の発展に寄与し、司祭の地位を委ねられた月の一族は皇族として王国を支える象徴となった。こうして月の皇族と日の王族との二頭政治によって秩序は保たれ、千年王国はその独立性を失うまで繁栄した。
第9章 鳥の姫
「籠の中でも鳥は鳴く。鳴く故に籠の中」
序
東の果てに翼人の暮らす風の島があった。彼らの国には、現世へ繋がる次元の扉と、その封印を解く宝玉があった。宝玉は城で守られ、次元の扉がある孤島は風の精霊の神風によって守られていた。
ある時、大陸の帝国が宝玉を狙って戦を仕掛けてきた。世界の半分を手にした帝国は、現世をもその手中に収めようとしたのだ。
翼人の弟姫は偽物の宝玉と共に帝国の手に落ち、翼人の兄姫は本物の宝玉と共に帝国の手から逃れた。弟姫は殺された父王に代わり、傀儡の女王となって偽りの平和を治めた。
破
籠の中でも鳥は鳴く。鳴く故に籠の中。翼人の国民は帝国の支配下にあっても自由を謳歌した。その平和を愛する国民性故に、支配に抗う術を知らぬのだ。
弟姫の持つ宝玉が偽物であることはすぐに露呈した。帝国軍が現世へ偵察を送ろうとして、宝玉の力が働かないことに気付いたのだ。
行方不明の兄姫が本物の宝玉を持って逃げたと察した帝国は、兄姫に追手を掛けた。兄姫は海を渡り、遠く聖地へ逃れていた。
急
聖地が独立国だったのは昔の話である。帝国領となっていた聖地で兄姫は捕らえられ、宝玉の在処を問われた。兄姫は宝玉を持っていなかった。本物の宝玉は何処へ消えたのか。兄姫はその翼を奪われても口を割らなかった。
籠の中でも鳥は鳴く。鳴かぬ鳥は土の中。兄姫の墓前で、弟姫は兄姫の好んだ歌を唄っていた。彼女が胸に抱える宝玉。それが風の精霊によって摩り替えられていることを彼女以外は知らない。
帝国軍は風の島から引き上げ、新たな宝玉を求めて戦火を広げた。風の島には精霊のもたらす風が吹いていた。その風音は鳥が鳴いているようにも、誰かが泣いているようにも聞こえた。
第10章 幻想の終焉
「彼らは長い道のりを歩み始めたばかりだった」
序
世界の半分を手にした帝国は、現世をもその手中に収めようとした。現世へ通じる次元の扉と宝玉は世界に幾つも見つかっており、その内の半数以上が帝国の手に落ちていた。
帝国は手始めに各地の次元の扉から偵察者を送り込んだ。そして現世には大気中に魔素が無いこと。現世へ渡った者は牙も爪もない人間の姿となること。現世に魔法や錬金術はなく、代わりに科学が発達していること。その他、様々な情報を帝国は手に入れた。
次元の扉と召喚術とを組み合わせて現世との往来の方法を確立した帝国は、軍隊を送り込むため、次元の扉の拡張を試みた。しかし崩された扉の崩壊は止まらず、拡張は続き、異世界と現世、二つの世界を呑み込んでしまう。次元の狭間に落ちた二つの世界は混ざり合い、混沌とした第三の世界を生み出した。
破
飛竜と飛行機が飛び交うビルの群れ。爆炎と爆弾の幕。帝国と現世の列強は第三の世界で覇権を争い、世界は乱世の時代を迎えていた。帝国は魔法で、列強は科学で戦い、戦況は列強の優勢にあった。
第三の世界は概ね現世に則っていた。しかし大気中には魔素があり、異世界人の姿は人間に変わることもなく、魔法の使用も可能だった。現世の人々は現代科学では解明できない魔法原理の究明に奔走し、その力を軍事利用しようと躍起になった。
戦乱は帝国の敗退と列強同士の膠着のうちに終わった。核兵器こそ用いられなかったものの、その強大な軍事力の前に帝国は消耗戦を強いられていた。戦死者は異世界人にとって過去最多となり、また混乱の中で多くの異世界人がその姿の珍しさから売買目的で誘拐されていた。帝国には人々のすすり泣く声が響いていた。
急
帝国は解体され、民族ごとに独立した仮の居住区を与えられた。現世と異世界、二つの世界の人口を抱えることは困難を極めた。各地で飢餓や暴動が相次ぎ、事態の終息を図るには戦後の処理だけでは済まなかった。
現世と異世界を再び分離する術はあるのか。旧帝国中枢と列強は手を取り事態終息に向けて動き始めた。難民の受け入れ、新たな土地の開拓、伝染病の予防、異世界の魔法や動植鉱物の解析、法の整備。やることは山の如く積み重なっている。その一つ一つにメスを入れる膨大な作業が残されていた。
幻想の終焉。現実の到来。彼らは長い道のりを歩み始めたばかりだった。
第11章 救世の物語
「彼女はかつて獅子心の女王だった」
序
それは不作から始まった。日々消費される膨大な食糧。その大半を担う稲や麦、種々の野菜などが穫れなくなっていた。鶏は相変わらず無精卵を生むが、受精卵を生むことはなくなっていた。人も家畜も出生率は急激に下がり、やがて途絶えた。何が起きているのか。事態を逸早く理解したのは、現世と異世界の構造をよく知る神族たちであった。
現世と異世界は輪廻で繋がっていた。現世で命を落とせば異世界へ、異世界で命を落とせば現世へ、魂は巡り再び生を享けるはずだった。しかし現世と異世界の境が崩壊したことで、輪廻の輪は崩れ、行き場を失くした魂のほとんどが転生することなく冥界に留まるようになったのだ。
本来すぐ去るはずの魂が留まった冥界には、新たな世界が築かれ始めていた。飢えも渇きもない世界。死んでも死なない世界。植物たちは青々と葉を茂らせ、動物たちは駆け回り、あるいは怠惰に寝てすごし、死者は冥界に順応して版図を再現していた。増え続ける冥界の住人。それは残された生者の減少を意味していた。
やがて地下に広大な空間が広がっていることが知られると、そこへ移住した人々により冥府の国々が築かれた。人々は永遠の時を満たす遊びを求めた。冥府には魔王や聖王が乱立し、放たれた魔物たちが跋扈するようになり、思い思いの装備を纏った人々はそれらを倒して英雄ごっこを楽しんだ。それはバーチャルではない、リアルとファンタジーに満ちた遊びだった。
破
一人の女性がいた。今はもう遠い日に彼女は殺められ、魂を収めた真珠を次元の狭間に投げ捨てられ、孤独に佇んでいた。世界が崩壊したとき、次元の狭間は奈落へ落ちた。そこは消え去ったものが辿り着くこの世の果てだった。空に月が浮かび、月へ続く長い階段が見えた。彼女は歩み始める。長い長い道のりを。
彼女が頂きに辿り着いたとき、月から幾筋もの白い糸が四方八方へ伸びているのが見えた。その先に懐かしい面影がある。彼女はそう直感した。どれがあの子へ続く糸なのか。彼女が糸に触れようとした刹那。世界は暗転し、明転した。
白い宮殿。白い玉座。白い衣を纏って、彼女はその玉座に腰かけていた。手足に鎖。前方にある白い大扉が開け放たれ、白い少女が室へと入ってくる。少女は玉座に縛られた彼女に跪き、語った。彼女がこの世の女王、裁きの女神に選ばれたこと。世界は終末を迎え、裁きという救いを待っていること。裁きは全ての人の子らに等しく下されること。彼女は悟った。誰よりも高く上りつめた果てに得たものは、この世の頂点としての責務だったことを。
彼女は裁く。悲しみを込めて。裁かれ奈落へ落とされる魂たち。紙切れのように、裁かれ、山となり、燃え尽き、消えていく。彼女は裁く。憎しみを込めて。玉座が彼女を苦しめる。彼女を王者たらしめているのは民衆の存在に他ならない。民なき世界に王はないのだから。断罪は終わらない。全ての人の子が裁かれ、彼女自身も裁かれるまで。あるいは、彼女が鎖から解放されるまで。白かった衣は彼女の心を映し、端まで黒く染まりゆく。
急
彼は悪魔を追って空の道を進んでいた。悪魔を裁けば世界は救われる。彼の神はそう言った。頭上に見える逆さの大地。重力魔法による空中移動。彼は逆さになって青い空を歩くのが好きだった。ビルの坂道を駆け抜ける。夕暮れの海を頭上に飛んで行く。探せど探せど悪魔は見あたらない。彼は冥府に目を付けた。
ビルの屋上。彼は遠く眼下に広がる灰色の地面を見つめ、そして飛び降りた。地面に大穴が開き、彼の姿は閉じた穴の中へと消えていく。跋扈する魔物を蹴散らして冥府を往く。辿り着いた幾つ目かの魔王城。そこに彼の探す悪魔はいた。これは遊びではない。ファンタジックなリアルの戦いだ。程なくして、勝利は彼にもたらされた。悪魔の魂は黒い箱に封じられ、奈落の底へと捨てられた。
奈落に落ちた悪魔の魂は、壊れた箱から這いずり出た。不明瞭だった姿が次第に形を取る。手には光を持ち、道なき道を照らして、ガラクタだらけの奈落を往く。すると光の先に一人の黒髪の少女の姿があった。彼女とは冥府で面識があったが、どうやら記憶を失くしているらしい。彼女はなぜ奈落へ落ちたのか。どうすれば奈落から出られるのか。二人の旅が始まった。
奈落に落ちてくるログという木片や紙片。それは裁かれた魂の成れの果て。ログは降り積もる。二人がいなければ誰にも読まれることのない暗黒領域に。徐々に記憶を取り戻す少女。思い出さなくても良いことまで、降り続くログの雨は彼女に教える。彼女はかつて獅子心の女王だった。影武者の手によって魂を引きはがされ、体に残った魂だけが転生を経て彼女となったのだ。二人は進む。やがて見つけた白い階段を上り、頂上を目指す。獅子心の成れ果て、裁きの女神が座す宮殿まで。物語の結末へ向けて。
第12章 砂漠の薔薇
「砂漠の薔薇。一夜にして滅んだ街の名を地図に記す者はもういない」
序
白い宮殿。黒い衣に包まれたこの世の女王。その御前に跪く白い少女。女王は視線の先の大扉を指差し、一言、裁けと命じた。少女はひとりでに開いた大扉の向こうへ歩み出し、姿を消す。廊下はない。あるのは黒い底無しの穴。反転する景色。空色。
目覚めた時、少女は一面の砂漠にいた。黒い髪。黒い目。黒い肌。黒く染まった衣をまとって、少女は歩み出した。人肌より熱い砂に素足が焼ける。長く重い髪を抱えながら、少女は砂漠を歩み続けた。やがて霞み、再び反転する景色。太陽。
キャラバンの一人がふと視線を流したとき、人影が崩れるのが見えた。望遠鏡を覗けば、それは防暑具もまとわず倒れている少女だった。隊を近付け、少女を回収すると、キャラバンは街を目指して行進を再開した。
破
砂にまみれ倒れていた少女は名を与えられ、商人の家に引き取られた。長い髪を結い上げ、赤い衣に着替え、少女は商人の家で働きながら、その街の人々の暮らしを見ていた。
透き通る人々。時折、形を成さない不定形の影が通り過ぎてゆく。そこは死者の国だった。記憶が形を成した疑似太陽。感じるはずのない熱、風、心地よい水の冷たさ。失ったものを取り戻すように、その街は平和に、優しく、幸福に満ちていた。
彼らは全てを失い全てを得た。彼らの欲は尽きることがない。黄金の泉。酒の噴水。なんと豊かで浅ましいことか。彼女は幸福な人々を決して嫌いではなかった。名を与えられたことが嬉しかった。だが、女王の命に背くことは考えられなかった。女王の命を果たすべく、少女は砂漠の宮殿へ向かう。
急
審判の時は訪れた。高らかに金管が吹き鳴らされ、死者の国の王がその時を告げる。人々は懺悔した。少女は砂漠の宮殿のバルコニーから天に手を差し伸べると、一言、呪文を唱えた。終わりのない毎日に終末が訪れる。砂漠の薔薇。一夜にして滅んだ街の名を地図に記す者はもういない。
目覚めた時、少女は白い宮殿にいた。眼前に座すこの世の女王が少女を指差すと、少女の姿はたちまち純白に染められ、女王の衣は一層黒く染められた。少女に砂漠の記憶は既にない。ただ次の命令を待ち、次の街を裁くだけだ。
女王は視線の先の大扉を指差し、一言、裁けと命じた。少女はひとりでに開いた大扉の向こうへ歩み出し、姿を消す。廊下はない。暗闇の底へと落ちていく。大事なことを忘れている。そんな思いを抱えながら。
第13章 夢現の終わりに
「過去は変えられない。変えられるのは未来だけ」
序
彼女は悪魔を追って空の道を進んでいた。悪魔を裁けば世界は救われる。彼女の神はそう言った。しかし彼女はその旅を道半ばでやめた。彼女の後継者が現れたのだ。彼女は連れの少女と共にデバッグルームに籠り、世界の理を守る道を選んだ。
デバッグルームにはブラックボックスがあった。それは世界のログを読むことのできる装置だった。少女にはログを監査する権能が与えられ、彼女には世界を訂正する権能が与えられた。それは世界の真理に触れる禁術だった。どこから嗅ぎ付けたものか、彼女達の権能を知りデバッグルームを訪れる者達が現れた。彼らは奈落へ落とされ、暗闇を彷徨うこととなった。その中には一人の黒髪の少女の姿もあった覚えがある。
ブラックボックスにはもう一つの役割があった。遠い昔からその中に封じられている魂の保護だ。それを解き放つとき世界は変わる。彼女の神はそう言った。世界は終末を迎えた。その時は近いのだろう。彼女は鍵束を取り出すと、室の奥の扉の鍵穴に一本の鍵を差し込んだ。ブラックボックスを持つ少女を連れて、真っ暗な扉の向こう側へと消えていく。あとには静かな一室が残された。
破
白い宮殿。白い少女が裁きの女神の元を訪れた。背後には四人の女を連れている。一人目の女が申し出た。女神の座を引き受けると。二人目の女が申し出た。自分の記憶を与えると。三人目の女が申し出た。貴女の過ちを訂正すると。四人目の女が差し出した。黒い箱と、それを開く一本の鍵を。
裁きの女神は静かにそれを受け取った。そして女神が黒い箱を開くと、燐光が溢れだし、それは赤い髪の女の姿をとった。女は箱の中から見続けていた。世界のログを。裁きの女神を。獅子心の女王を。旅する王女を。一人の少女を。赤い狼の目を通して見続けていた。
繰り返し語られ、少しずつ変わる物語の向こう側に、赤い彼女は一人の神を見た。黄金の獅子の座を欲して足掻く醜い神だ。神は黄金の獅子を吊し上げ、引きずり下ろし、また吊るし上げ、報われない結末に嘆いていた。幸福を求めて不幸を撒き散らす。その神こそ、真なる悪魔に他ならなかった。
そんな神なら消えてしまえばいい。燃える髪の女は怒りの形相で玉座の向こうを指差し、一言、裁けと命じた。叛逆の狼煙は上げられ、最後の審判は下された。玉座の背後に揺らめく影。形なき神。白い少女がそれに歩み寄る。そして。
急
神は消えた。白い宮殿と共に。後には空っぽの白い空間が残された。黒くぽっかりと空いた穴の中に、白い階段が続いている。一人目の女が下りていく。女神の座は引き受けたと。二人目の女が下りていく。自分の記憶は与えたと。三人目の女が下りていく。貴女の過ちは訂正されたと。四人目の女が下りていく。またねと一言呟いて。
残されたのは、かつての猫娘と狼娘。全ての記憶を得た猫娘が問う。やり直せるのかと。全ての記録を見ていた狼娘が答える。やり直せるのだと。空っぽの白い空間。黄色と赤色。二人に任せたら太陽くらいしか描けないでしょう。空色、海色の魚娘が声をかけた。土も踏めやしないだろう。土色、樹色の鷲娘が続いた。気付けば二人の周りには、色とりどりの人々が集まっていた。
いつか見た召喚者が語る。世界は再誕の時を迎えた。天国か地獄か。あるいは幸か不幸か、夢か現か。道は御前の応えにある。猫娘は目を閉じ、そして口を開いた。果たして、彼女の決断は──。
エピローグ
夏休み。花火を見に丘を訪れた四人の少女たちは、閃光と共に異世界の城へ召喚された。猫、狼、鷲、魚の亜人となり唖然とする四人に、召喚者が語りかける。
四人が召喚された理由は機密であること。現世と異世界は輪廻で繋がっており、四人の姿は前世のものであること。現世へ帰るには四つの宝玉が必要であること。宝玉はこの島の四方を守護する四神に託されていること。
召喚者の話を聞いた四人は、宝玉を求める旅に出た。過去は変えられない。変えられるのは未来だけ。繰り返し語られ、少しずつ変わる物語。その結末が幸せなものになることを願って。
「一緒に帰ろう!」
彼女は光へ向かって歩み出した。